賠償責任保険とは
柔道整復師、はり・きゅう師やあん摩マッサージ指圧師、その他の手技療法を行うあらゆる施術家にとっての最大のリスクは不測の治療事故だ。 そんな事故から施術家を守ってくれる心強い味方が賠償責任保険だ。 しかし、損害保険会社(損保会社)では施術家個人に対する賠償責任保険は扱っていない。 国家資格者の治療家は開業するときに加入した請求団体の提携先の損保会社を紹介され、お勧めの賠償責任保険パッケージで契約を締結するのがほとんどだ。 また、個人請求で院を経営する治療家や自費診療だけの院、民間資格者などの場合は、卒業校や手技の団体などに加入して、その団体が提携している保険会社と契約するケースが多い(図1)。
図から分かるように、団体は提携する損保会社と賠償責任保険パッケージを施術家に紹介するだけだ。 契約そのものは損保会社と施術者が直接行う。一般的な保険と同様に賠償責任保険も契約内容がびっしりと細かい字で記載されて分かりにくい。 もし、加入する保険について吟味することなく契約し、単に「入っているから大丈夫!」とタカをくくっていると、いざ事故が起きたときは後の祭りになることがある。
一例を挙げると一般的な賠償責任保険では「柔整師のみ対象」など、細かく免責規定がなされており、そのためたとえ同じ院で働く治療家であっても、全員が必ずしも保険対象とならない場合がある。 院長以外、柔整師以外、柔整師とあはき師の国家資格者以外は担保されないことがある。 保険会社の約款は保障対象になるものは分かりやすく、ならないものを読み解くのは難しい傾向があるといわれている。
日本治療協会の仕組み
一般社団法人日本治療協会(JHA)は1998(平成10)年に発足。 基本方針は施術内容や所属するサロン、治療院、企業や団体を問わず、全ての施術家が安心して施術を行える環境づくり。
そのため、一般社団法人日本治療協会が対象とする施術家には国家資格者はもちろん、 民間資格者(アロマテラピー、カイロプラクティック、オステオパシー、整体、その他)も含まれ、まさかのときでも施術内容によって賠償責任の対象から漏れる心配がほとんどない。 JHAは日本国内であれば施術場所も問わず、出張や業務委託時に起こったトラブルにも即時に対応する。 さらに保険診療、自費診療を問わず、賠償責任に応じた補償金が支払われる点も大きな特長となっている。
当初、共済団体としてスタートしたJHAはその後、2006(平成18)年の保険業法の法改正を受けて、有限責任中間法人として会員の福利厚生を担う組織変更。08年に一般社団法人となり現在に至り、ほぼ四半世紀の歴史を有している。
JHAの基本的な仕組みは一般的な賠償責任保険とは大きく異なる。 損保会社とJHAとが直接契約を結び、加入する会員である個々の施術家は個人名で賠償責任の被保険者となる。 万が一施術に起因する賠償責任が生じた場合は会員保障制度で賠償責任保険から保障金が支払われる仕組みとなっている(図2)。
一般的な賠償責任保険では「柔整師のみ対象となる」など、全員が必ずしも保険対象とならない場合がある、 これを未然に防止するためJHAでは、施術家一人ひとりが個人の名前で会員登録し、加入者は保険料ではなく会費という形で費用を支払うことになっている。 このようにすることで誰が起こした事故でも等しく賠償の対象としてJHAのサポートを受けられる仕組みだ。
また事故が発生した際に無料で提供される懇切な電話アドバイスは大きな魅力になっている。 またクレーム対応などの相談に対しても、過去の豊富な事例をもとに適切なバックアップを図っており人気が高い。 さらに「ほかの保険会社と契約済み」の施術家であっても、今加入している保険で「漏れ」ている保障が穴埋めできる。 いざというときの保障の「漏れ」を未然に防ぐことで、日々の施術、経営に安心して集中することができる。
請求団体から指定された損保会社の保険パッケージをいわれるままに契約、まさかの事故の際「(入っていたはずの)保険でカバーされなかった」といったリスクが、グンと軽減されるのが人気の秘密だ。
JHAの会員種別と年会費、JHA会員数は次の通りとなっている(表1・図3)
保険の必要性やJHA会員のスケールメリットなどを理事長の靑柳真佐緒氏に聞いた。
当方の会員以外の方からの相談を受けることもたまにありますが、相談は受けても全員でなければ賠償金などの支払いは相談をしてきた本人になります。当方は相談者に今までの事故事例などとその場合の賠償金額を提供しますが、「万が一裁判になったら費用は多額だろう」と施術者が勝手に判断して、払わなくてもいい金額を払ってしまうことなどがあります。それを防ぐためにも保険に入って相談できるところがあった方がベストです。
柔整師でいえば団体に所属している人は約7割と言われています。それ以外の無所属の3割が全員保険に入っているとは思えません。不測の治療事故はどなたにでも訪れる可能性があります。
鍼灸師は鍼灸師などの会に所属していなかったり、会に所属するのが面倒で退会したりしていて保険加入者は少ないように思われます。
あん摩マッサージ指圧師の訪問マッサージの場合、施術者が個人で契約している一部の損害保険では施術事故を起こした施術者以外の雇用主や業務委託元に施術事故の請求がきたとき賠償金が被害者に支払われないことがあります。支払われない理由は、昔マッサージ師はそれぞれ独立して、どこかの院に所属することがなく院=施術者でした。それをそのまま踏襲しているような保険では可能性があります。JHAは「会員が行った施術が原因である賠償責任は保険対象」となっているために本人以外への請求でも支払われます。
保険での注意点は、実際に事故が発生した際は基本的に保険資料の提出や被害者(患者)との交渉、示談などは契約者自身が進めていかねばならないという点です。 賠償責任保険を自動車保険と同じイメージで捉えている人が多いのですが、これは間違いのもとになっています。 自動車保険では弁護士会と損害保険の業界団体があらかじめ協定しているため、保険会社が顧客の代理人の機能を果たしてくれますが、施術家向けの賠償責任保険では法的にそれを行うのは不可能です。
基本的には自分自身で解決のためにアクションを起こしていく必要があります。 このように一般的な賠償責任保険に加入しているといっても油断は禁物で、知らないところにさまざまなリスクが潜んでいる場合が多いです。 いざというときのために相談できる保険に加入した方がよいと思います。
いつも「先生」と呼ばれている施術家が施術事故によって立場が逆転してしまいます。こんなとき「どうしたらいいんだろう。何から始めたらいいんだろう」など施術家は大きく混乱してしまうことがあります。施術家からJHAでの相談で状況を話すことによって論点整理もできて、なにから始めればよいかなど気持ちの切り替えができたと感謝されることがあります。
事故事例をあげます。接骨院で頸椎および腰椎に脊柱管狭窄症の持病がある患者さんを、院長が多忙のため従業員スタッフが施術を行った。その患者はその後、激しい痛みに襲われ救急車で入院。患者は腰の骨の一部を骨折しており治療院に賠償請求がきました。院長が開業時に契約を結んだ保険会社の担当者に問い合わせてみると「契約は院長先生のみ。他のスタッフが行った治療による過失は100%免責となっています」との答えで、対応についてのアドバイスは一切受けられなかった、などです。
会員数2万5千人超のスケールメリットについてですが、加入者が200人、300人の施術団体は団体としては多い人数ですが、 保険会社から見ると1000人以上加入者がいなければ少ないと見られます。 年に数件ですがたいした事故もないのに提携先の損保会社から契約更新しないと通告される団体があります。 2万5千人超の会員がいれば損保会社もむげにできない存在になります。
保険会社は保険会社独特の考え方があり、施術家には施術家ならではの考え方があります。 ときには相容れないこともありますが、JHAは保険会社に施術家ならではの考え方を保険会社が理解できるように伝えることと、 保険会社独特な考え方を施術家が理解できるように説明することも大きな仕事だと思っています。
JHAの設立時には団体と提携している保険会社の施術家の保険にさまざまな部分的に補償されない「漏れ」がありましたが、当会の保障内容が業界に浸透することによって保険会社もさまざまな工夫や改定をされました。JHAの加入者数が増加することで施術者の保険そのものの底上げができたとひそかに自負しています。ただ、すべての施術家のための理想的な保険制度にはまだ至っていませんので、JHAの存在はまだ必要だと考えています。そのためにも保険を提供し続けること、保険を扱い続けることがJHAの責務だと思っています。
JHAにはこの会員保障制度(賠償責任保険の適用)のほかに、エステティシャン個人(被保険者)の危機を使った施術が保証される新しいタイプの「エステティシャン賠償保険」、病気やケガによって働けなくなったとき所得が保険金にて補償される「所得補償保険」がある。これらの問い合わせ先は下記の通り。