特集Ⅰ 「柔道整復師業界の動向と将来を探る」

 全国柔道整復師連合会(代表理事田中威勢夫・東京)と日本個人契約柔整師連盟(会長岸野雅方・大阪)が2年前の2020年4月全国柔道整復師統合協議会を発足させた。 この統合協議会には協同組合中央接骨師会や次世代を担う柔道整復師改革推進協議会も参加しており、 統合協議会資料によると合計参加柔整師施術所は2020年3月末現在1万5251カ所と公益社団法人日本柔道整復師会と数で肩を並べた。
全国柔道整復師連合会(全整連)の代表理事田中威勢夫氏は、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会の柔道整復療養費検討専門委員会の仕掛け人である。 この統合協議会も共同代表であり仕掛け人だ。 そんな全整連の代表理事田中威勢夫氏に柔道整復師業界の現状と将来の業界をどのように見ているのかなどを聞いた。

全整連と柔道整復療養費検討専門委員会

田中氏は一般社団法人日本整復師会の会長を務める傍ら全国柔道整復師連合会(全整連)を立ち上げている。日本整復師会設立のきっかけは、田中氏が共同組合日本接骨師会の法制部長として勤務していたとき、柔道整復(柔整)師業界にはびこるさまざまな問題に直面し、柔整師業界そのものの変革が必要だと考えたことだ。日本接骨師会会長の登山勲氏から柔整師業界〝いろは〟を学びそれが田中氏の活動の源となっている。しかし時代は変わり業界に対する考え方に隔たりが芽生えはじめ断腸の思いで退職し、日本整復師会を立ち上げたという。

田中氏は「数多くの柔整師団体の意見をまとめ活動方針を決めたい。そうしなければ厚労省もどの団体の意見を聞けばよいのか分からなくなり、業界は活性化できない」との強い思いから柔整師業界団体の集合体「全整連」を2011年に立ち上げた。全整連立ち上げの際、歴史ある公益社団法人日本柔道整復師会(日整)とも意見を一つにできたらと大同団結パーティーを開き、日整の役員に挨拶を依頼し実現した。それまで話し合いそのものもほとんどなかった日整との関係が、これをきっかけに少しづつ築けるようになったという。

全整連の働きかけで民主党政権時に「民主党柔道整復師の業務を考える議員連盟」が立ち上がった。このときのことを田中氏は、「当時、柔整の療養費を決めるのに際し、柔整師がその会合に入らないで役所と一部の有識者がつくり上げたものを日整に提示し、日整がOKを出したら〝決定となる〟。会合そのものに柔整師が入っていないのはおかしいとの私の意見に、当時の議員連盟会長・故中井洽議員が賛同してくれました。中井洽議員に当時の小宮山洋子厚労大臣を紹介して頂きました。中井議員と一緒に柔整師業界の実情や要望を伝えに大臣のもとに何度か行きました。また、大臣のもとに行く際は日整のメンバーも入れたほうがいいとの私の意見を中井議員が取り入れてくれ、東京都柔道接骨師会(当時)の会長が途中から参加しました。これをきっかけに柔道整復療養費検討専門委員会が立ち上がることになったのです」。「構想時の委員会メンバーは有識者4名、保険者4名、柔整師4名そして厚労省でしたが、私は実績と当時の会員数のバランスから委員を日整から3人、全整連から2人の5人体制がいいとお願いし、この人数で決定し正式に検討専門委員会が発足しました」。「柔道整復療養費検討専門委員会は今年の5月で第22回を数えました。全整連は柔道整復師団体情報交換会や柔道整復師連携フォーラムを定期的に開催し、目的をある程度達成していますが、まだまだ途上だと考えています」。

全国柔道整復師統合協議会

「個人契約」の話し合いの場をつくり意見を集約させ、「個人契約のための業界窓口」になることを目指すという「全国柔道整復師統合協議会(全整協)」が、2020(令和2)年4月に発足。 この全整協は柔道整復療養費専門検討委員会の理事を輩出する全国柔整鍼灸協同組合(全柔協)の日本個人契約柔整師連盟と全整連が団結し、参加柔整師数が増加することで発言力の強化を目指している。 全整協には後に協同組合中央接骨師会や次世代を担う柔道整復師改革推進協議会も参加し、本年3月現在で1万5251の柔整施術所が参加する大きな組織になっている。 協議会の代表は全国柔道整復師連合会代表理事・田中威勢夫氏と日本個人契約柔整師連盟会長・岸野雅方氏の共同代表制だ。

 全柔協は全国柔道整復師統合協議会に参加した理由を2020年3月24日付けのプレスリリースで下記のように伝えている。
【現在、柔道整復師の受領委任払いは、制度上ほとんど差がないものの「協定」と「個人契約(全柔協組合員も個人契約)」に分かれています。 これまで個人契約の柔道整復師は、請求団体が乱立し意見集約どころか一堂に会する機会すらなく、「協定」の代表たる公益社団法人日本柔道整復師会と協議することもできませんでした。 全柔協としても全国柔道整復師統合協議会に参画し、全体の約3割となった「協定」と協議の場を持つため、業界の旗振り役としてまずは個人契約の柔道整復師の意見集約を図ってまいります。(編集部要約)】

 全整協について田中氏は、「全整連単体では日整の過半数にも至りません。個人請求の柔整師業界がもっと大きくなり、発言力を増すために全柔協など大手と呼ばれる請求団体と手を組むことが大切との思いから働きかけ、理解して参加いただき日整と肩を並べるまでの参加数になりました。だからといって数の論理で団体を一つにするつもりはありません。さまざまな団体があっていいと思います。ただ日整を含めた団体の活動や意見は一つになるように努力していきたいと思っています。日整とはぶつかり合いではなく、柔整師業界のため「大同小異」で目標を一つにして活動していきたい、私は可能だと思っています」。

最後に請求団体にとって存在の危機となるオンライン化について聞いてみた。

「将来オンライン化されて支払窓口が支払基金などに一本化されたとき請求団体がなくなる可能性があります。このときのデメリットは、役所への折衝ごとや委員会などでの発言ができなくなるということです。そうなると役所の言うがままになってしまいます。また、接骨院はレセプトという機微な情報を扱うためオンライン化には医科や歯科のような高性能なセキュリティ費用は不可能です。委任は法律上何ら問題がありませんので請求団体が高性能セキュリティ機能を導入し、請求団体を通して会員の請求をする方法があります。その場合、請求団体は何らかの認定が必要かもしれません」。

◇    ◇    ◇

 新型コロナウイルス感染症拡大時の柔整師やあはき師へのワクチン接種は、田中氏らの東京都への働きかけが実施のきっかけだという。 また、今年5月20日の公明新聞は「公明党厚生労働部会は19日、衆院第二議員会館で全国柔道整復師統合協議会と接骨院や整骨院などで働く柔道整復師の活躍促進に関して意見を交わした。 田中共同代表らは、柔道整復師が知識や技能を最大限に生かして働ける制度の構築を訴えた」と伝えている。 さらに公明党とは「柔道整復師の業務範囲を外傷性疾患への施術から運動器系疾患の施術を拡大させる」ことをメインとした政策協定を結ぶ交渉を進めているという。

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