新型コロナウイルス・デルタ株
国内の現在の第5波はインドで発見された変異株「デルタ株」が主流だ。デルタ株はそれまでの株より感染力が強く、 国内の1日の感染者数は8月13日と14日は2万人を超えた。国立感染症研究所感染症疫学センターの解析(今年8月23日時点)では、感染者の陽性検体に占めるデルタ株検体の割合は、東京・埼玉・千葉・神奈川で99%、大阪・京都・兵庫で96%と推定されている。デルタ株はなぜ感染力が強いのだろうか。理由はヒトの細胞へのはりつきやすさと、感染した人が出すウイルスの数の多さといわれている。
球形の新型コロナウイルスはスパイク(スパイクタンパク質)と呼ばれる突起で表面が覆われている。スパイクは感染相手の細胞に付着する武器だ。 そのスパイクタンパク質を構成するアミノ酸がウイルス複製の際に異なる種類に変わると、ヒトの細胞の受け皿(受容体)に付着する能力が増大することがあり、 その場合は感染力が高まる。イギリス型のN501Y変異株(アルファ株)は、従来株のアミノ酸配列の501番目がN(アスパラギン)からY(チロシン)に置き換わっている。 これにより感染力が約1・3倍高まっている。デルタ株はスパイクをつくる遺伝子に「L452R」と呼ばれる変異が入り、突起の形が従来株から少し変化、 受け皿にがっちりとはりつきやすくなった。このように重要なのはウイルス表面のスパイクと呼ばれる突起に起こる変異だ。
感染症に詳しい森島恒雄・愛知医科大客員教授は、デルタ株を「ひっつき虫」と呼ばれる雑草オナモミの実に例えている。草むらを歩いたときに服にオナモミのとげがくっつくと、 1個ずつ取るのが大変。同様に、デルタ株はいったん人の肺などの細胞にはりついたら離れにくいという。森島教授は従来株を「枯れ葉」に例えている。地面に座ったときに服についた枯れ葉は手で払ったらすぐ落ちる。このように従来株は人の細胞の受け皿に付着しても離れやすいという。
「デルタ株の現状は、小さな小さなひっつき虫が空気中に漂っているようなイメージだ」という。さらに、はりつきやすいデルタ株は、よりたくさんの肺の細胞に入り込んで感染して、 急激な重症化につながるとのこと。
変異ウイルスの対策
治療院の変異株の感染対策は従来通り実行することに加えて、次の対策を参考に内容を見直し必要なら強化することが肝要だ。
スタッフ・院長のコロナウイルス対策
◇ こまめな手洗い・石けんと流水による手洗い
◇ 速乾性擦式消毒用アルコール製剤による手指消毒
◇ 就業前の検温の実施
◇ マスクの着用
◇ 外出時などは人混みを避ける
患者や院内のコロナウイルス対策
○ 予約がない、マスク着用ができない人の入室規制
○ 体調確認・感染症既往などの問診の徹底
○ 新型コロナウイルスに感染した疑いのある患者の治療制限
○ 来院患者のマスク着用依頼および検温の実施
○ 店舗入り口に患者用手指消毒液などの設置
○ 治療用ベッドの間隔を1メートル程度に離す
○ タオルは患者が変わるごとに交換
○ 治療用ベッドは定期的に次亜塩素酸水、アルコールなどで清拭消毒
○ ドアノブ、スリッパ、トイレ内など患者やスタッフの手が触れる箇所の清拭消毒
○ 施術中は飛沫感染を防ぐためカーテンを閉める
○ 施術者は患者ごとに施術直前に手指消毒をする
○ 治療院内の空気の入れ換えを定期的に行う
ウイルスは少数では確実に細胞にはりつけず感染を広げられない。多数のウイルスが侵入しより強く細胞にくっつくことで感染する確率を上げる。そのため、デルタ株に感染した人の呼気やせき、くしゃみなどで外に出る飛沫には、ウイルスの数が多いと考えられる。中国の研究チームは7月、デルタ株に感染した人は従来株に感染した人に比べ、感染が最初に判明したときのウイルス量が平均で約1000倍多かったと報告している。
ウイルスのくっつきやすさは変えられないが、人が周りに広げたり吸い込んだりするウイルスの数は減らすことは可能だ。これまで以上に、人が周りにいるところでのマスク着用、こまめな換気、人との距離をとる、手洗いなどの感染予防対策を徹底することが重要だ。
※詳しくはひーりんぐマガジン73号秋号特集2をご覧ください。