徒手医学基礎講座Vol.7 人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty: TKA)の術前・術後の注意点

荻窪リハビリスタジオ 水谷哲也 先生
アシスタント 岩間絢子 先生
今回のお題である「TKA=人工膝関節置換術」や「THA=人工股関節置換術」の手術経験者は整骨院、整体院で今後増えてくる患者です。病態をしっかりと把握し、やっていい手技とダメなものをしっかり理解し、今号を熟読して不安になっている患者の力になれるよう職場に浸透させてもらえると私もうれしく思います。

初診時、問診票に人工膝関節と書いてあったらみなさんは何に注意して施術を行いますか? 変形性膝関節症(OA)は欧米人にはほとんどいない床の生活をするアジア人独特の疾患です。実際、私が習ったドイツ徒手医学では膝関節の治療がほとんどありませんでした(ドイツ人は9割がX脚でO脚はほとんど見かけないそうです)。実際の臨床でも『床の生活→骨盤が開き股関節外旋→O脚+体重増加→変形性膝関節症』の発生機序を多く見かけます。疫学から考察しても60歳以降に膝関節の伸展制限が出現し、70歳以降に腰椎の後彎が始まるとされていくことからも、『膝関節伸展制限(-10度)→スクリューホームムーブメント〝最終伸展外旋制限〟→足底の荷重面は小指側→下腿外側過緊張→やはりО脚』ということになります。変形性膝関節症の症状である膝内側の痛みはO脚により膝の内側に荷重がかかりすぎて軟骨がすり減り、骨棘が形成され変形していきます。
変形初期の場合、初動時に痛くしばらく歩くと楽になるという主訴をよく聞くと思います。これは軟骨がすり減ったことにより関節の摩擦係数が上がりスムーズな関節運動ができなくなった状態です。しかし学生時代に習った通り、関節液の供給は関節軟骨からされますので歩行すると関節軟骨に荷重がかかり関節液が出て関節の摩擦係数が低下し痛みがなくなる、という機序になります。もう一つ大切なことを学生時代に習ったのですが覚えていますでしょうか? それは軟骨には侵害受容器がないということです。軟骨がすり減っているから痛い…。これは間違いで支配神経から見ると軟骨下骨まで達しないと痛みは出ないということになります。この他に高齢者の膝の痛みの原因となるものは①膝蓋下脂肪体や膝蓋支帯、②大腿神経の枝、伏在神経由来の痛み【膝周囲の支配神経(図1)参照】、 ③滑膜炎、④その他鵞足や半腱・半膜様筋、半月板の変性断裂、側副靱帯由来の痛みなどがあります(図2)。
図1 ②大腿神経の枝、伏在神経由来の痛み【膝周囲の支配神経】◇◇◇◇◇◇◇◇
図2 ③滑膜炎、④その他鵞足や半腱・半膜様筋、半月板の変性断裂、側副靱帯由来の痛み

※記事の詳細は、ひーりんぐマガジン58号(新春号)をご覧ください。

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