よく、不正請求について耳にします。
治療院では、患者ごとに1カ月の施術代のうち、患者の自己負担を差し引いた部分を療養費として公的医療保険機関に請求します。
これを審査支払機関が審査して、過剰請求と査定した場合、医療保険機関はその分を減額したうえで治療院に支払います。この請求の仕方にアヤシイものがあると聞きます。
過剰請求には日数及び負傷個所の水増しと架空請求などがありますが、近年、悪質な不正請求は詐欺事件にまで及ぶケースも少なくありません。収入が少ないからといって不正請求を行なうとはとんでもないことです。
この不正請求の実態に詳しくて、接骨院を何件か経営している知り合いの柔整師A氏に、現在の実態や対応などの話を聞きました。
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―― 不正請求というと少しくらいは大丈夫だという人がいるけど、実際にはどうなの?
柔整師A氏 不正な請求には「水増し請求」と「架空請求」なんかあるね。悪質なのが架空請求。
例えば、10回来た患者さんを12回来たことにするなんてことはまだ可愛いもので、1回しか来院していないのに25回来たことにするとか、接骨院に通っている(ことになっている)患者が、実は近くの整形外科病院に通っていたとか、1カ月のうちに片方の接骨院に20回、もう1軒の分院の方へ20回通うなんてヘンでしょ?
そんなことがある種当たり前のようになってしまっていた過去があった。
最近、特に地方厚生局の調べがきつくなってるようだけど。よくチェックされるのは「患者が極端に多いところ」だとか「レセプトの枚数が多いところ」だね。
国保連がうるさいのは、アンケートを出したときにどうも話がおかしいと。結果、その書類を国保から地方厚生局に全部ゆだねる。そこから審査が始まる。で、「どうも、そこの接骨院はおかしい。呼び出しをしよう」となるんだ。確固たる証拠を掴んだ上で呼び出すから呼び出されたらもう駄目だと思った方がいいね。
● 「生活が苦しいので…」は通用しない。
―― 指導や監査などはどうやって行なわれてるの?
柔整師A氏 最初は指導。東京都の場合は、厚生労働省からではなく関東信越厚生局 東京事務所から来るよ。指導というのは、まず聞きたいことがあるっていってくる。そこで、架空請求ということを本人が認めれば、そこから監査にはいる。それで、水増し、架空請求した理由を聞かれるという感じかな。
ここが大事なところだけど、「生活が苦しいので不正請求した」などという人が多い。面白いことにそういう先生方は、毎月にこれだけなければ生活ができないと決めている。
例えば本来は毎月200万円なければ生活できないとして、「今月は100万円しかないから仕方なくやった」ととかね。
こういった生活のレベルの言い訳というのは、特に分院・多店舗展開しているところに多いようだね。やはり、売上げが左右するためかな。
どうしても患者さんの数字ではなく、レセプトの数字しか見ない経営者が多いんだ。すると当然 “多い” “少ない”なんて考え方になってしまう。
ある先生が指導で地方厚生局に行った時、「これが本当の数字だが、これでは生活ができない」って言ったら、担当官は一言。
「じゃ、全ての財産を潰したらどうですか」。厳しいようだけどこれが現実。自分でまいた種とはいえ、監査などになるととても惨めだよ。
カルテを書いていない先生も結構いる。だから、1カ月前に呼び出されて、カルテを全然出せなかったり、3分の1しか出てなかったりする。
地方厚生局は施術内容を見るわけじゃない。毎月出しているカルテしか見ないから、カルテをどれだけちゃんと作成しているかということが大事なんだ。
カルテと請求が合致していれば、そこで今度は意識的に出したのか出さないのか、もし間違って出したのならば、これは返すべきだね。
カルテがめちゃめちゃな場合、監査にすぐ入る。監査というのは、たとえば、そこの治療院1回休みにして何人かが見に行くなんていう生易しいもんじゃないよ。
任意で地方厚生局に行く。要するに「1日休んで、こっちに来て」といわれるもので、あちらの言うとおりに全部調べていく。