● 物件の選定
デパート、スーパー、駅、ファッションビルなどのイベント性の高いモノは、人を引き寄せ、人の流れや住民動線までも創ってしまうものです。
それでは開業する時には、 「いっそのこと、そのイベント性の高い建物そのものの中に入ってしまう方が良いのではないか。」 と思うのは当然です。建物自体が集客力を持つテナントビルでの開業は、多くの人々が考えていることだと思います。
確かにそれは、 「人の流れ」 というものの真ん中に自院を持つことになるのですから、自然に来患があるものでしょう。テナントビルの場合、そのビル自体が集客したい客層から大部分の店舗を誘致していますので、そこにも十分に目を向ける必要があります。
しかし、大型商業施設であるテナントビルは、家賃が非常に高額なるばかりではなく、ビル内の通路、エレベーター、トイレ、駐車場等の共用スペース、警備業務、修繕費用その他諸々の維持管理にかかる経費を、借りた店舗面積に応じて負担しなければならなくなります。
更にほとんどのテナントビルは、売上の一定率を家賃に上乗せの形でチャージして来ます。また内装工事等も、テナントビルの指定業者を使わざるを得ないこともあります。もちろん、集客力の高いテナントビルほど保証金、家賃、管理費などが高額となっています。
つまり、非常に高い固定費を強いられることになり、そのうえ経営的に高度な技術とノウハウと豊富な資金が必要になって来ますので、少なくとも、第一店舗(院)目からテナントビルで開業することは避けた方が賢明でしょう。
いくつかの経験を積み、最低1軒は成功させて、ノウハウと資金を得た上でチャレンジしないと大きな後悔をすることになりかねません。
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テナントビルでも、前述のものほどイベント性も高くない一般の雑居ビル (ピンからキリまでありますが…) のような場合にも、いくつかの絶対条件があります。
その一つに 「視線よりも高い階は避ける」 というものがあります。人間の歩行時に於ける視界は上下約45度程度です。さらに、人間が歩行時に看板を認識する場合、前方約30メートルが限界なのだそうです。
このことからも、テナントビルの3階以上での開業は敬遠した方が良いといえます。通行人の視角に入らない場所では、宣伝・告知に苦労することになり、開業から経営を維持するための最低通院患者数 (損益分岐点) の確保までに、通常よりも多くの時間と資金を要することになるでしょう。
また、テナントビルの場合に避けた方が良いものとして、銀行とパチンコ屋があります。よく、銀行の入っているビルだからしっかりした物件であるという見方をする方がいらっしゃいます。しかし銀行は、3時になるとあの重々しいシャッターが閉まり、大変に冷え冷えとした雰囲気を醸し出します。
特に 「治療や癒し」 を求めている人々は、肉体的のみならず精神的にも弱っていますので、この冷たい感じは決してプラス要因にはならないと思います。
また、パチンコ屋が1階に入っているビルでは、たいてい、ビル全体が娯楽・遊興関連の商売で埋まっています。それは 「硬い商売」 が入る雰囲気ではなく、治療院としてはまったくそぐわない環境といえるでしょう。
反対に、1階に既製の商品を取り扱う店舗である薬局、ディスカウントドラッグ、大型書店が入っている場合は、それらの周辺業種の存在だけで、雰囲気と店格 (院格) を上げてくれることが期待できます。これらのことから、特にテナントビルに入る場合には、プラス要因とマイナス要因となる周辺業種を十分に考慮する必要があります。
(人口調査から内外装業者の選定まで (後編)につづく)