経験者が語る不正請求体験談
シリーズでお送りしている、不正請求の体験談。過去に不正請求を行ってしまった、ある先生の告白をご紹介します。
なお、先生のプライバシーの関係上、実際の事実とは異なる表現が一部用いられている事をご了承ください。
――実際に不正請求の過ちを犯してしまった先生の元へは、その後不正請求に関する話が集まるようになったという。今回はそうして不正請求事情に詳しくなってしまった先生のお話を紹介します。
どのきっかけで発覚するのか?
――先生の場合はある程度、保険者から目星を付けられたうえで指導・監査となった。保険者が不正請求が行われていると判断するのは、どういった材料からなのだろう?
「よくあるのは『情報提供』ですね。『あそこの接骨院は不正やってるぞ!』という情報提供です。当然の如く、一般の患者さんは不正請求だなんて事を知らない事がほとんどなので、これは同業他社や元従業員が、告発しているのでしょう。特に元従業員の場合は『危ないことをやらされていた』という怒りもあるでしょうから、詳細に告発をするそうです。
変わったところでは、『内部告発』もあるんだそうですよ。院長のやり方が気に入らなかったり、経営方針を変えたいと思っている従業員が、変革へのきっかけになればと告発するんです。これは現状をそのまま伝えられるので、即監査に繋がる可能性があります」
――患者から直接保険者に問い合わせが行われることもあるという。
「先ほど、一般の患者さんは不正請求だなんて事を知らない、と言いましたが、知らないからこそ起きる事があります。患者さんが直接保険者に質問をしてしまうケースです。不正請求を行っている院では、患者さんに対して「カルテには○○と書きますけど、こうやって書かないと保険が使えないんですよ。だから気にしないでくださいね」なんて説明する事があります。言われた患者さんが不審に思って保険者に問い合わせをして発覚するというものです。
同じようなものでは、保険者から患者さんへの問い合わせの結果判断という事もあります。もちろん患者さんも「○月○日にどの部位にどういう施術を受けたか?」という事を完全に把握している事の方が少ないので、保険者から問い合わせが来たら教えてください、と事前に説明している治療院もあると思います。
また保険者側でも常に独自のチェックをしています。聞いた話によると、毎月いくつかの治療院をピックアップして精査するようです」
保険者による精査
――それでは保険者側での精査はどのように行われているのだろうか?
「まずは無作為に抽出したいくつかの治療院に対して精査を行っているという事実はあるようです。話は少し前後しますが、先ほどお話しした”保険者から患者さんへの問い合わせ”というのも、精査の一環だといえます。
あの問い合わせも『患者さんが、覚えていない、なんて答えてしまったらすぐに不正請求だと判断されるんじゃないか?』という話もよく聞かれますが、前述したように患者さんの記憶が完全では無いことは保険者もよく知っています。ただし、一定数の患者さんに問い合わせを行って、その全員が「記憶が無い」と言ったらおかしいと判断できるでしょう。なので、これが精査を行う治療院選びの判断材料としても使われますし、精査の第一歩としても使われているんですね。
実際に精査する治療院のデータは縦覧チェックなどで精査されます」
縦覧チェックとは?
単月ごとにレセプトデータをチェックするのではなく、病名や月を縦横に並べてチェックする方法。
同じパターンで不正請求を行っていると、このチェックにより露見する。
医療・介護のレセプトチェックなどでも常用されている。
プロの目を誤魔化すことは限りなく難しい
「これは私の恥ずかしい体験からもおわかりいただけるかと思うのですが、大量のデータをねつ造しようとすれば、どうしてもいくつかのパターンができてしまいます。病名のたらい回し(部位転がし)にしても三ヶ月ごとに病名を変えてみたり、治癒が月末に集中していたり、多部位が同時開始の同時治癒だったり等々。こういった人為的にねつ造したものには、どうしてもパターンが生まれます。そういうのは縦覧チェックであっさりと見破られます。
じゃあ縦覧チェックで引っかからないように、パターンを増やそうとすると、どうしても通常ではあり得ない内容になってしまいがちです。つまりはデータのねつ造というのはとても難しいのです。相手は毎日大量のレセプトを見ているプロなのです。生半可なねつ造はすぐに見破られてしまうんですね。
他にもレセプト一枚辺りの単価平均や平均部位数などもチェックされがちです。こういった事だけでも、保険者からすれば「何かおかしいぞ?」と感じ取ってしまうものです」
実は既に注目されている
「では実際に保険者が精査を行い、疑いを強くした治療院はどうなると思われますか?保険者として疑いが濃厚であれば、私の時のように、予め監査目的の個人指導を行うこともあります。その場合には保険者でも証拠固めをしっかり行っています。個人指導前には保険者からの問い合わせが急増していたこともあるわけです。
しかし、実際はその前段階から保険者からのメッセージのようなものもあるのです。今まで何も言われなかったような細かい点に関して問い合わせを受けたり、ですね。例えば私の知っている例では、保険者から「ここの漢字は何と書いているのですか?」という問い合わせが来るんだそうです。言われた先生は『わかりそうなものなのに』と気にもとめなかったのですが、これは保険者からの『あなたの提出したレセプトはしっかりと精査しています』というメッセージなのです」
次回は会に関する話
いかがでしたでしょうか?不正請求の実態には保険者としても、このような対処をしているという一端を知っていただければ幸いです。
次回はシリーズ最終回として「会に関する話」をご紹介します!